BHCC研究所の2016年のテーマは、ホワイトカラーの生産性としている。興味深いものがあった。
深尾京司「生産性・産業構造と日本の成長」
RIETIのディスカッション・ペーパー 2015年
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/pdp/15p023.pdf
である。
生産性の議論には、ICTの話が終始つきまとう。
最近流行のインダストリー4.0もICTだ。
本ペーパーでは、
・先進国では、資本蓄 積のスピードは TFP 上昇率と総労働時間の増加率に左右され、両者が高くなる ほど速くなる。つまり、1990 年以降の資本投入増加の寄与の低下はかなりの程 度、TFP 上昇率の低下で説明できることになる。今後長期にわた って生産年齢人口が毎年 1%弱減少すると予想される日本にとって、TFP 上昇の 引き上げが、働くことを希望する女性労働や退職後の労働者の活用と並んで、 経済成長を維持する上で必須であることを意味する。(本文「図1」参照)
という問題意識のもと、
・1991年以降、全要素生産性(TFP)の上昇が減速した。その理由として、日本は、米国、英国などと比較してICT投資が不足していた。
・日本が、ICT革命に乗り遅れたのは、小規模や社齢の若い企業のICT投入が最適水準以下であること。同時にICTの専門家の確保が困難などの理由があった。
・中国の成長率減速と、最終需要構成の「投資から消費へ」の転換は、中国の成長率の低下よりも、投資から消費への転 換の方が、日本国内雇用の著しい減少する。(なぜなら、日本とドイツは投資財を主に中国に輸出 している。一方、消費財を主に 輸出している米国の雇用は、中国の投資から消費への転 換ではあまり減らない)
と語られる。
中国経済のシナリオは、3つ想定しており、
1)楽観的シナリオ
IMF は、2015-20 年の中国の実質経済成長率を年率 6.22%と想定している 。本シ ナリオでは、この楽観的と思われる成長が達成され、中国の各最終需要項目(家 計最終消費、政府最終消費、総固定資本形成、在庫投資)も、同率の 6.22%で 成長すると仮定する。なお、各最終需要項目の内訳(各国・各産業アウトプッ トに対する需要の構成)は、不変とする。
2)成長減速シナリオ
2015-20 年の経済成長率が減速し、中国の各最終需要項目の成長率が 4.0%で あると想定する。なお、各最終需要項目の内訳(各国・各産業アウトプットに 対する需要の構成)は、不変とする。
3)構造改革シナリオ
中国が構造改革に成功し、国内アブソープション(家計最終消費、政府最終消 費、総固定資本形成、および在庫投資の和)に占める家計最終消費と政府最終 消費の和の割合が、2015 年から 2020 年にかけて、2011 年実績の 49.9%から 70% に上昇し、他方、国内アブソープションに占める総固定資本形成と在庫投資の 割合が 50.1%から、30%に下落すると仮定する。なお、国内アブソープション 全体の成長率は、1)楽観的シナリオと同じく、年率 6.22%で成長すると想定す る。また、政府最終消費と在庫投資は 1)楽観的シナリオと同一と仮定し(国内 アブソープションに占める割合は 13.8%と 3.1%)、上記の変化は全て、民間最 終消費の増加と総固定資本形成の減少で生じるとする。なお、各最終需要項目 の内訳(各国・各産業アウトプットに対する需要の構成)は、不変とする。
分析の1つとして、
シナリオ1)と3)、つまり、成長率6.22%と同一として中国内の構造転換が進んだ場合に、日本国内の雇用に最も打撃が大きいのは、電機・光学機器、金属製品、その他 機器などの資本財生産産業であり、リース・その他事業所サービスも大きな打 撃を受ける。と指摘している。
「中国が風邪をひくと・・・大変だ」とその影響がメディアで語られることが多くなった。
その「因果」の分析、最終的な結果について経済学(者)からの適確な情報発信は貴重だ。